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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)947号 判決

控訴人

後藤弘子

控訴人

岡部紀美子

右両名訴訟代理人

磯崎良誉

磯崎千壽

被控訴人

馬場重徳

右訴訟代理人

浅見東司

村田豊

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  原判決主文第一項のうち控訴人後藤弘子にかかる部分を次のとおり変更する。

「控訴人後藤弘子は被控訴人に対し原判決別紙目録(一)(二)記載の各建物から退去して同目録(一)(二)記載の土地を明け渡せ。」

三  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所も被控訴人の本訴各請求(控訴人後藤に対する請求については当審における一部減縮のあつたものによる。)は、原判決が認容した限度(同控訴人に対する減縮部分はすでに失効しているので、この部分を除く。)において理由があると判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか原判決の理由説示(原判決一〇枚目表一〇行目から一四枚目表一〇行目末尾までと、一六枚目表三行目から同裏四行目末尾まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一一枚目表一行目の「被告後藤弘子本人尋問の結果中」を「原審及び当審における控訴人後藤弘子本人尋問の結果中」と改め、同枚目裏六行目の「部分がある。」を「部分があり、」と改め、これに続けて「右各本人尋問の結果によりいずれも眞正に成立したと認められる乙第二ないし第四号証には、その趣旨にそう記載がある。」を加え、同七行目冒頭から同枚目末行末尾までを全部削除する。

2  同一二枚目表一行目の「成立について争いのない」の前に「しかしながら他方、」を加え、同四行目の「被告らが」から六行目の「によれば」までを削除し、同八行目の「小次郎であり」に続けて「(甲第一〇号証)」を加え、同一〇行目及び同枚目裏五行目の各「と記載されている」を削除する。

3  同一三枚目表四行目冒頭から六行目末尾までを次のとおり改める。

「右に認定した事実関係によれば、二一〇坪の土地を賃借りした者は、控訴人岡部ではなく、訴外小林小次郎であると認めるのが相当であり、前記控訴人後藤の各供述中、右賃借人が控訴人岡部であるとする部分は措信することができず、また、前掲乙第二ないし第四号証の記載内容も前掲甲号各証の記載及び控訴人後藤本人の前掲供述によつて認められるような訴外小林と控訴人岡部との関係からして採用することができず、他に控訴人岡部が右土地賃借権を譲り受けたとの事実を認めるに足りる証拠はない。」

4  同一三枚目表末行及び同枚目裏八行目の「被告後藤本人尋問の結果」をいずれも「原審及び当審における控訴人後藤本人尋問の結果」と、同枚目裏八行目の「こと」を「うえ」とそれぞれ改め、同一四枚目表四行目の「認められる。」を「認められるほか、」と改めたうえ、これに続けて「官署作成部分の成立に争いがなく、その他の部分の成立は弁論の全趣旨により認められる甲第五号証の一及び署名及び宛名部分の成立に争いがないから、同号証の全部が真正に成立したものと推定すべき同第六号証によれば、控訴人岡部は、大野いちの代理人である弁護士浜田三平外一名から昭和四七年八月三〇日付書面(甲第五号証の一)をもつて、大野いち、坂巻トク、小林小次郎に同控訴人を加えた四名間の昭和二七年一月一七日付契約書による合意に従い、同控訴人がもはや旧建物(右書面によれば、一棟は建坪、一階28.25坪、二階14.5坪の二階建、他の一棟は建坪二〇坪の平家建とされているが、その合計面積62.75坪は、前顕甲第一〇号証の売買物件の表示である旧建物建坪、一階三五坪七合五勺、二階二六坪七合五勺計六二坪五合とほぼ合致し、右は旧建物を指称しているものと認められる。)についての買戻権を昭和二七年四月三〇日限り喪失したとの通告と、これに基づく旧建物の明渡し及び損害金支払の請求を受けたところから、右通告及び請求に対する応答として旧建物の所有権が大野いちにあることを認め以後一切の異議を述べないことを認めた念書を差し入れたことが認められる。」を加える。

5  同一四枚目表五行目の「賃借人」の前に「外形的にみて本件土地の」を加える。

6  当審提出の控訴人らの予備的抗弁(使用借権の時効取得)について次の判断を加える。

控訴人らは、控訴人岡部が昭和二七年四月二五日から一〇年間ないし二〇年間にわたり本件土地の占有を継続したことにより使用借権を時効取得したというのであるが、控訴人らの主張によれば、控訴人岡部は、その占有の初め、旧建物の所有権を取得し、またその敷地部分と本件土地部分とに対する賃借権を譲り受けて取得したと信じ、右の期間その占有を継続したというのであるから、同控訴人が使用借権を取得したと信じたものでないことは、その主張の内容に照らして明らかであるといわなければならない。してみると、控訴人岡部が右の占有によつて使用借権を時効取得することのできる筋合いのものでないことは明らかであるから、控訴人らの主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

7  同一四枚目表一〇行目の次に行を変えて次のとおり付加する。

「以上によれば、控訴人岡部は被控訴人に対し、本件建物の所有者として本件建物を収去することによりその敷地である本件土地を明け渡す義務があることは明らかである。また、控訴人後藤は同岡部の単なる同居者であるにとどまらず、本件建物を控訴人岡部から使用借りしている者であることは控訴人後藤の第一審以来自認するところであるから、被控訴人は同控訴人に対して独立に債務名義を求めうべく、同控訴人は被控訴人に対し、本件建物から退去することにより本件土地を明け渡す義務のあることは明らかである。」

8  原判決一六枚目表八行目の「その額」から同枚目末行末尾までを次のとおり改める。

「その額が少なくとも前記公租公課の1.5倍を下るものでないことは、顕著な事実であり、その限度では被控訴人の主張は理由があるものというべきである。しかるところ、控訴人後藤は、本件建物に居住するだけであつて本件土地の不法占有者に該当しないとして、本件土地についての賃料相当損害金の支払義務を争つている。成る程、他人が所有権を有する土地に無権限で建物を所有する者から右建物を借用して占有使用する者がある場合に、その者の建物に対する占有使用と土地所有者が右土地を使用することができないこととの間には、相当因果関係が存しないのが本則であるが、右建物使用者の使用の態様が土地の占有使用に及んでいると評価できるようなときは、例外的に土地所有者が土地を使用できないこととの間に相当因果関係を肯定するのが相当である。しかるところ、〈証拠〉によれば、本件建物は、控訴人らが当事者となつて昭和五五年一一月二八日に成立した東京地方裁判所八王子支部昭和五四年(ワ)第九四四号事件の裁判上の和解に基づく合意(右和解成立の事実は当事者間に争いがない。)により、旧建物明渡し期限とされた同五六年五月末日を経過する前後頃に本件土地上に建てられたものであるところ、控訴人岡部は右和解期日には出頭したものの、昭和五二年頃からすでに老令のため特別養護老人ホームに入院しており、本件建物の建築工事に関する諸手続や請負業者との交渉、契約の締結はすべて控訴人後藤が代つて行つたものであり、また控訴人岡部は本件建物にたまに帰宅することがあるだけで、控訴人後藤が居住して専用しており、本件土地の空地部分は貸駐車場用地として利用され、駐車場営業による収益月額七万円は同控訴人の生活費の一部に充てられていることが認められるのであるから、このような事情のもとにおいては、同控訴人は、単なる本件建物の居住者として本件建物からの退去による本件土地の明渡義務を負担するにとどまらず、その建物使用と被控訴人が本件土地を使用できないこととの間には相当因果関係があり、被控訴人に損害を与えているものとして、本件建物の所有者である控訴人岡部とは独立して被控訴人に対し賃料相当額の損害賠償金の支払義務を負担するものと解するのが相当である。そして、控訴人岡部は建物所有者として右損害賠償金の支払義務があるのは当然であるから、控訴人らの損害金支払義務は共同不法行為として不眞正連帯の関係にあると解するのが相当である。

二以上によれば、被控訴人の本訴請求は、控訴人岡部に対し本件建物を収去することにより本件土地を明け渡し、かつ、昭和五六年七月一日から右土地明渡しまで月額三万〇一五三円の割合による賃料相当損害金の支払を求め、控訴人後藤に対し本件建物から退去することにより本件土地を明け渡し、かつ、控訴人岡部について説示したと同様の損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべく、被控訴人のその余の請求を棄却すべきであるところ、原判決は結論において右と同旨であつて相当であるから、本件控訴を理由なしとして棄却すべきものとし、請求の減縮があつたので、その限度で原判決を変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(吉井直昭 岡山宏 河本誠之)

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